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 『存在証明』は、2014年に殺人事件を起こして服役中の元少年(当時17才)が詞を書き、アーティスト松井亮太が曲をつけ、歌っている作品です。 事件の罪は重いですが、少年が、浪費する実母と義父にネグレクトや虐待を 受けていたこと、学校にもほとんど通えなかった状況下で育ってきたことから、 多くの大人たちが胸を痛めてきました。

 今回、奇跡のような偶然が重なり、『存在証明』が生まれました。作品は、クイズヘキサゴンでの楽曲づくりで松井亮太とコラボした、編曲家、岩室晶子を中心にそのスタッフが集結し、すばらしい作品となりました。

 社会から見過ごされた「見えない子ども」だった元少年はこの曲で、自分のような 子どもが今ここにいることを「証明」し、その子の心に寄り添おうとしています。

 今回元少年が、もっと多くの方に聞いてもらいたい、と、PV作成を希望していることもあり、広く応募を募り、コンペティションさせていただくことになりました。ぜひ多くの方に共感をしていただき、作品の応募をお待ちしております。

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少年が生まれたばかりの妹の世話をしながら、実母・義父と野宿をしていた横浜市港北区の公園

1.川口市祖父母強盗殺人事件 事件の概要  
2014年3月、埼玉県川口市で当時17歳の少年が祖父母を殺害し金を奪うという痛ましい事件が起きました。事件を起こした少年は、小学5年生から学校に通わせてもらえず、母親と義父に連れられラブホテルや野宿での生活で各地を転々としました。その間、様々な虐待を受けるという、過酷な環境で育ちました。16歳になると義父が失踪し、少年が母親と妹を養うため家計を支えましたが、稼いだ金はすべて母親の遊興費に消えました。そして、遊興費を得るため祖父母を殺害するよう母親に指示され、事件を起こしました。元少年は大人と同じ裁判で裁かれ、懲役15年の判決を受けて現在刑務所で服役中です。 これらを取材し、書かれた『誰もボクを見ていない』(山寺香著)もぜひ読んでいただきたいです。

2.元少年と『あかり』の出会い  
元少年は事件を起こす前日の夜、JR北千住駅前の大型ビジョンで、当時松井亮太が所属していたバンド「ワカバ」が歌う『あかり』という曲を聴きました。内閣府の自殺対策キャンペーンソングに使われている『あかり』は、死にたいほど追い詰められた人の心に寄り添う曲であり、元少年はこの曲の歌詞が心に刻みました。事件後、母親に連れられ逃走した元少年はその日の夜、宿泊先のホテルでパソコンを借り、うろ覚えの歌詞を手がかりに「あかり」の動画を探し、「もっと早くこの曲に出会いたかった」と思ったそうです。(『誰もボクを見ていない』(山寺香著)より)

​内閣府の自殺対策キャンペーンソングに使われている「あかり」のPV

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3.そして、元少年と松井亮太さんの「再会」  
このことを、松井亮太は、以前一緒に仕事をしたことがあった作編曲家の岩室晶子から送られてきた書籍を読んで知りました。2017年8月のことでした。横浜市に住む岩室は、『誰もボクを見ていない』を読み、少年が「あかり」に心を動かされたことを知り、松井に伝えました。2018年9月、松井亮太のライブで、支援をしているチームと音楽家がつながり、「元少年のために音楽の力で何かしよう」と思いが一致。元少年が詩を書くのが好きなことから、「元少年が書いた詩に曲を付けられないだろうか」という岩室の提案を受け、曲作りが本格的にスタートしました。

4.「存在証明」の制作  
刑務所にいる元少年とのやりとりは、知人を介して手紙を交換しながら、ていねいに行われました。松井は、互いが納得いくまで元少年の伝えたいことに合う言葉を探し、やり取りした手紙は10通以上になりました。アナログでの手紙のやりとりに時間がかかりましたが、2019年7月、ついに「存在証明」が自主制作CDとして完成しました。作詞家「優希」の誕生です。「優希」は元少年のペンネームです。

5.「存在証明」に込められた思い  
やり取りした手紙の中で、元少年は、自分に似た境遇で育ち「自分に生きている意味なんてあるのだろうか」と感じている子どもに向けて書いた、と綴っています。歌詞の中で元少年は、「誰かに言葉をかけられるほど 私は人間出来てないんです」「人には言えない罪も抱えています」などと自分がどんな人間かを紹介し、そんな自分だけれど、「ほんのわずかでも 君が少しでも 私を望んでくれるのなら(中略)君のためだけに言葉を紡がせてください」と語りかけています。

会から見過ごされた「見えない子ども」だった元少年はこの曲で、自分のような子どもが今ここにいることを証明し、その子の心に寄り添おうとしています。

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